異議申立の目的と和解交渉-戦略的ツールとして
商標出願は、出願人がその商標を事業に活用する意向があることを示す行為です。従って、異議申立によってその使用を阻止または制限することは、保有する先行商標のブランド力を守ることにつながります。さらに、第三者による将来的な類似商標の使用の抑止にもつながります。
業界内で広く使用されている商標の場合、ある特定の事業者が権利を獲得して利益を独占するような行為を、異議申立によって牽制することができます。
一般的に異議申立では、和解によってコストや紛争の複雑化を避けるとともに、相互の立場を再確認する道を模索します。国際協定を締結して、複数の管轄区域でその後の対立を回避するケースも少なくありません。英国とEUにおいて、和解交渉を成功に導くポイントをご紹介します。
クーリングオフ期間
EU知的財産庁(EUIPO)、英国知的財産庁(UKIPO)ともに、和解協議のための「クーリングオフ期間」を設けています。この期間は延長が可能ですが、延長によって交渉の余地を残しつつ、手続きを事実上留保することができます。
EUIPOの管轄下では、アドバーサリアル・パート(異議審理期間)へ移行する前に、両当事者が和解策を模索するための期間が自動的に2か月与えられます。この期間は、両当事者が合意すれば最大22か月の延長が可能です。
UKIPOの管轄下では、クーリングオフ期間に入るか否かを検討するための期間が両当事者に2か月与えられます。正式なクーリングオフ期間に入った場合、双方が共同で申請すれば、まず7か月、さらに追加で9か月の延長が認められます。
和解交渉に進展が見られない場合等は、いずれの管轄域においても当事者は一方的にクーリングオフ期間を終了させることができます。
和解契約書
和解に至った両当事者は、合意内容を正式に書面化した和解契約書を交わすことで、その後の事業を支障なく進めることができます。
和解契約には、両当事者の商標の使用・登録、対象となる商品・サービスに関する規定が盛り込まれます。また、当該契約が適用される地域も記載されますが、英国とEUの両方で異議が申立てられている場合は、両地域とも契約の適用範囲に含めるのが理想です。
当事者にとっては、和解契約に盛り込む規定は最小限に留め、相手方の商標の保護範囲を制限することで自分たちに有利な事業環境を作るのが理想です。これは、例えば商標の保護範囲に「コンピュータソフトウェア」など広義の文言が入っている場合は特に効果的です。
和解後の取り決め(変更、分割、制限など)
和解に至った場合、出願人は保護対象となる商品・サービスに制限を加えられたり、出願自体の取り下げを迫られたりすることが考えられます。これらの変更履歴は商標登録簿に記録されます。逆に異議申立人が申立の取り下げを求められるケースもあります。
契約締結後は、双方の関係者が契約内容を共有し、規約の遵守を徹底することが重要です。