最近の記事 で述べたとおり、「2023年 維持されたEU法(廃止・改正)」は2024年1月1日に施行され、英国裁判所はEU司法裁判所の判例法からの逸脱が認められることとなりました。このことは、英国における意匠と著作権に関する法律に大きな影響を与える可能性があります。
英国とEUの登録意匠法は20年以上にわたって制度調和が担保されてきましたが、それぞれの実務には大きな違いがあります。さらに近年、EUの裁判所が著作権に関連する判例を発展させたことで、著作権を存続させる著作物の範囲が英国の「クローズドリスト」よりも拡大される可能性があります。「維持されたEU法」が意匠と著作権の両分野にどのような影響を及ぼすのか、今後も目が離せません。
登録意匠
従来、英国とEUの登録意匠に関する法律と実務には、意匠広報を延期できる期間の違い(EUは出願日または優先日から最大30か月であるのに対し、英国は出願日から最大12か月)をはじめ、実質的な違いがありました。しかしブレグジット後、UKIPOはEUIPOの審査指針とは異なる登録意匠審査指針を、特にアニメーションGUI(グラフィカル・ユーザー・インターフェイス)の意匠出願において多数導入するようになりました。
意匠登録に関する拒絶理由通知書の法的根拠はやや不透明ですが、EUIPOは、こういったケースの拒絶理由通知書を発行しない傾向にあります。加えて、英国の意匠出願は、請求された意匠のアニメーションシーケンスがユーザーとのインタラクションを必要とする場合、拒絶理由通知書が発行される場合がありますが、EUIPOでは発行されない傾向にあります。さらに、英国では、アニメーションシーケンスのいずれかのフレームが、他のアニメーションフレームに存在しない新たな意匠要素や特徴を含む場合、UKIPOがアニメーションGUIに対して拒絶理由通知書を発行することが一般的になっています。
欧州委員会は現在、EU全域における意匠法の改正を提案しており、最新の法律案は最近の欧州議会で承認されました。 提案されている新法にはGUIの意匠保護を改善するための条項が明確に含まれていることから、EU意匠法は英国の法律や実務からさらに相違点が増えると考えられます。今後、英国法が現状に近い形のまま発展していくのか、あるいは「維持されたEU法」によって英国がさらにEUから離れていくのか、注目に値します。
未登録意匠
英国は1989年以来、独自の未登録意匠法制度を有し、EUとは少し異なる未登録意匠権保護制度を運用してきました。 2000年代初頭にEUの未登録意匠法制度が英国にも適合する形で導入された後、英国では従来の英国の制度とEU制度を併用していることが明らかとなりました。ブレグジット後、EUの未登録意匠権制度は、英国において「補助無登録意匠権」と呼ばれるさらに新しい制度に置き換えられました。このように英国の未登録意匠に関する法律は現在、非常に複雑化され、特に新EU意匠法案がEU全体の未登録意匠に関する法律の整合性を図ろうとしていることを考慮すると、英国の制度はEUの意向を反映したものとはいえません。
「維持されたEU法」により、英国裁判所はEU法に沿った法解釈をする必要がなくなったため、英国裁判所が「補助無登録意匠権」をどのように解釈するかが注目されます。 また、英国政府が登録・未登録を問わず英国意匠法を合理化し、デザイナーによる権利保護の利用を簡略化しようとしている動きからも目が離せません。
著作権
前述のとおりEUの裁判所は最近、著作権法に関する複数の判決を下し、特定の作品に著作権が存続するかどうかを判断するための新たな基準を導入しました。これは、その作品が著作者自身の独創性のある表現であるという意味で独創的であるかどうか、またその作品が十分な正確性と明確性をもって区別できるものであるかどうかを判断するための新しい基準です。 さらにEUの裁判所は加盟国に対し、著作物の保護を受けるために追加条件を課すことを禁止すると決定しました。
この基準は「著作物が独創性があり、かつ1988年著作権法、意匠法、特許法に定められた著作物の種類のいずれかに該当することを要求する」という、著作権の存続に関する英国の従来の基準と相反するものです。
例えば「Response Clothing Limited v. Edinburgh Woollen Mill」の判例では、「織物が芸術的な職人技の作品であると同時に著作者の独創性の表現である」と認定し、英国法とEU判例法の両方に沿ったものとなりました。 しかし英国裁判所がこのEU判例法の流れに従い続けるのか、それとも従来の著作権法の解釈や1988年法の厳格な適用に回帰し、著作権が存続しうる作品の範囲を狭めるのか、今後の動向が注目されます。
今後の動向
上記のとおり、意匠法および著作権法にはEU法の影響を強く受けてきた分野が数多くありますが、2024年1月1日の「維持されたEU法」施行に伴い今後は変わっていく可能性があります。登録意匠、未登録意匠権、著作権に関連する法律はすべてEU法から逸脱し始める可能性があるため、知的財産権所有者は、自らの権利および必要な保護、それらの保護を受けるための戦略を慎重に検討することが一層重要となります。この分野における英国とEUの法律や慣行の違いを理解することは、知的財産権者が双方の法域で適切な保護を確実に得るうえで不可欠です。英国とEUの双方に弁理士を擁するマークス&クラークは、これらの問題に対する今後のアドバイスや、両地域の意匠法および著作権法に関する深い知見に基づく明確かつ商業的観点に立った提案を行うことが可能です。