最近、ヨーロッパの特許関連の法的手続きを担う新法廷「統一特許裁判所(UPC)」。その運用開始が迫っていることが報じられました。
UPC運用開始に合わせて導入される「単一特許」は、当然ながらUPCの管轄となります。また、UPC加盟国内で効力を持つ従来型の欧州特許も、原則としてUPCの管轄下に置かれるため注意が必要です。
ただし、単一特許と異なり、従来型特許はUPCの管轄下に置いておく「オプトイン」か、UPCの管轄から除外して各国の裁判所を管轄とする「オプトアウト」のいずれかを選択することとなります。
UPCの本格稼働は2022年後半から2023年初頭になる見込みです。しかし、特許権者は既存の特許権をUPCの管轄にするか、オプトアウトするか、すぐにでも検討を始めることが重要です。オプトアウトを望む場合、必要な手続きについても早急に確認しておきましょう。
なぜ「オプトアウト」が必要なのか
UPCの運用開始後、原則7年(14年まで延長可能)の移行期間が設けられ、その間、加盟国内で有効化された特許についてはUPCと各国裁判所の双方が管轄権を持ちます。つまり権利の侵害や効力について争う際、特許権者および異議申立人にとって、新たな法廷の選択肢が加わることになります。
UPCは中心的な法廷として全加盟国を網羅しますが、その制度にはメリット、デメリットの両方あります。メリットとしては、国ごとに発生していた訴訟費用が一本化されるため、コスト削減につながること。デメリットは、各国ごとに有効化されている特許権がUPCでの訴訟ひとつですべて取り消されるリスクが生じることです。
まだ実績のない新法廷に貴重な特許権を委ねることに対し、特許権者が慎重になるのは当然です。自社の特許を確実に守るため、UPCからのオプトアウトを望む特許権者は少なくないと思われます。オプトアウトされた特許はUPCの管轄外となり、現状と同じく各国の裁判所がその国内での訴訟を管轄します。
オプトアウト – 実務について
UPCからのオプトアウトは自動的には行われず、特許権者からの申請が必要で、オンラインでも申請可能となる予定です。現在、オプトアウトのためのソフトウェアを開発中ですが、1回の手続きで複数の権利をオプトアウトする場合には、そのソフトウェアを利用すると安全です。
考慮すべき重要な実務事項は以下の通り:
オプトアウトを申請できる時期
オプトアウトの申請期限は、移行期間終了の1か月前までですが、移行期間開始前の「サンライズ期間」にも申請可能です。「サンライズ期間」とは、2022年末頃を見込んでいるドイツの批准書寄託からUPC運用開始までの準備期間を指し、3~4カ月間の予定です。
オプトアウトされていないEU特許がUPCでの訴訟対象となった場合、その後のオプトアウトはできません。手続き規則の草案によれば、オプトアウトを有効にするにはUPCの登録簿への記載が必要ですが、記載には形式審査があります。従ってオプトアウトを希望される場合はサンライズ期間の早めに申請を済ませ、UPC運用開始までにオプトアウトの登録簿への記載を確実にしておくことを強くお勧めします。
オプトアウト申請書の内容
オプトアウトの申請には、対象となる特許または特許出願番号、およびその特許権者を明記する必要があります。
申請は特許または特許出願の正式な特許権者が行う必要がありますが、登録簿に記載されている特許権者と一致しない可能性もあります。万一、権利のない所有者の名前で申請してしまうと、後にオプトアウトが無効となり、UPCにおいて取消訴訟を起こされた際の敗訴リスクにもつながります。
オプトアウトを申請できる人
特許権者は自身でオプトアウト申請を行うこともできますが、ヨーロッパの特許弁理士などの代理人に依頼することも可能です。マークス&クラークでは、必要な書類の準備サポートや、オプトアウト申請の代行などを承っております。
オプトアウトの期間
一度登録されたオプトアウトは移行期間終了後も、その特許が存続する限り有効です。
一方で、オプトアウトした特許をUPCに再度オプトインすることも可能で、その際はオプトアウトの取り下げを申請します。ただし、その特許が国内の裁判所で係争中となっている場合は取り下げをすることができません。また、一度オプトアウトを取り下げた場合、再度オプトアウトすることは不可能です。
サンライズ期間に備える
UPCの運用開始までにはまだ多くの準備作業がありますが、特許権者の皆様は今のうちからサンライズ期間への準備を始めることをお勧めします。
その理由は、サンライズ期間中のオプトアウト申請が多数に上ることが予想されるためです。期間中に大量のオプトアウト申請が提出され、その処理にも日数を要すると思われます。
オプトアウト申請の処理に遅れが生じることも見越して、特許権者は可能な限り早めに準備を始め、サンライズ期間開始後すぐに申請を行うことをお勧めします。
必要な準備作業:
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保有する特許のポートフォリオを見直し、オプトアウトすべき特許を選定する
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所有権のステータスを詳しく調査し、オプトアウトする特許の権利移行について確認しておく
マークス&クラークでは、ご要望に応じてこれらの準備をサポートさせていただきます。担当の弁護士、またはupc@marks-clerk.com までお問い合わせください。