ブレグジット以前は、ある商品がEEA内で適法に販売された場合、当該商品に付随する登録商標などの知財は「消尽」し、条件の改ざんなど特定の事情がない限り、権利者は域内における以後の取引を制限することはできませんでした。
離脱交渉において英国とEUは、「消尽」の扱いを巡っては合意に至りませんでした。そこで英国政府は2018年EU離脱法を通じて離脱後の「消尽」の扱いを一方的に定めました。現状の英国法の下では、英国またはEEAのいずれかで市場に流通した商品の知的財産権は消尽します。離脱法は、知的財産権の消尽に直接的な効力を持つ権利を維持することで、上記の消尽を可能にしました。具体的には「欧州連合の機能に関する条約」の「商品移動の自由」に基づく権利を適用しています。しかしEU側では状況が異なり、EU法では英国市場へ最初に流通した商品の知的財産権はEU域内では消尽せず、域内での以後の取引に対して権利者は異議を申立てることが可能です。
2024 年1月1日に施行された「2023年 維持されたEU法(廃止・改正)」は、離脱時に保留されていたEU法を2023年末までに廃止、撤回、改正するというものです。EUの判例法からの逸脱が容易になるなど、英国の法的環境に与える影響については知的財産分野に限らず多くの憶測を呼んでいます。
「維持されたEU法」は保留されていたEU法を再定義する権限を英国政府に付与しており、英国政府は知的財産権の消尽の原則について、現在施行されている2023年知的財産権の①権利の消尽、②改正(以下、「規則」)において適用しました。同規則は英国およびEEAにおける現状の制度を維持するものです。従って権利者に与える実質的な効果は何も変わらないと言えるでしょう。
しかし、将来的には制度変更の可能性もあり、実際にUKIPOの法令ガイダンスページには以下のような記載があります。
「これらの規則は、英国政府が今後の消尽制度のあり方を決定するまでの期間、現行制度を継続することを規定するものである」
同規則の今後の方針や改定の時期などは明らかにされていません。
税関の取締り
これとは別に、税関の取締り、および模倣品を阻止するための効果的な知財の監視にも目を向ける必要があります。ブレグジットの移行期間終了までは英国もEUの税関制度に組み込まれており、英国税関を通じてEU全域を対象とした措置を直接申請することができました。このような措置申請は、EU全域における模倣品の発見と差止を支援するデータを税関当局に提供するものでした。移行期間終了後も英国の企業がEU域内で知的財産権を保護するために税関記録を行うことは可能ですが、上記のような措置はEU加盟各国の税関を通じて申請しなければならなくなりました。
同様に英国の知的財産権者は、英国国境部隊が侵害の疑いのある商品を効率的に発見・差し止めできるよう、英国歳入税関庁に英国AFA(措置申請書)の提出が義務付けられました。
上記の通り、英国とEUの税関当局は相互に到着した商品を差し止める権限を持ちます。一方、知的財産権については以下のように対応が分かれます。
・先にEEA内で販売されていた場合…英国では消尽したとみなされる
・先に英国内で販売されていた場合…EEAでは消尽したとみなされない
(いずれも権利者によって、または権利者の同意の下に販売されていた場合)
今後起こりうる消尽制度の改正はもちろん、英国とEU間を移動する商品に対する通関手続きは「並行輸入」に重大な影響を及ぼす可能性があります。スペアパーツや医薬品をはじめ、長期的には幅広い産業への悪影響が懸念されます。
英国とEUの双方に拠点を持つマークス&クラークは、EU全域および英国での輸出入手続きをサポートし、消尽や並行輸入に関するアドバイスも提供いたします。
・弊所の模倣品・海賊版対策サービスの詳細についてはこちら (英語のみ)
・ブレグジット後の英国およびEUの措置申請プロセスに関する詳細はこちら (英語のみ)