自社の商標権を侵害しかねない新たな商標が、英国とEUの両管轄域で出願された場合でも、いずれか一方への異議申立のみで権利を守れる場合があります。両管轄域で並行して異議申立を行う場合は、それぞれの制度に応じて適切に手続きを進める必要があります。その際、両管轄域での手続きに矛盾や重複が生じないよう連携することが成功の秘訣。ここでは、そのポイントをご紹介します。
英国とEU、どちらを取るか
状況によっては、英国かEUいずれか一方のみにリソースを集中させた方が効果的なケースも。片方のみでの手続きで、結果的に双方での出願取下げや補正に至る可能性もあり、コストや手間の削減につながります。
どちらの管轄域で異議申立を行うかを決めるには、それぞれの出願手続きの進捗状況を比較することが重要です。例えば、EUにおいて異議申立てのための公告が行われている一方、英国ではまだ審査が開始されていない場合、英国での手続きを急ぐ必要はないでしょう。
英国とEU、どちらを優先させるのかを決める際には、以下の要素も検討する必要があります。
- 各管轄域における両当事者のポジションとパワーバランス
- 手続きにおいて優位にはたらくのはどちらの管轄域か
(例えば、EUの異議申立手続きは、交渉を友好的に進めるための時間的猶予が与えられる一方、英国では出願人に答弁書提出の義務がある等の違いがある)
- 両当事者の予算状況
英国とEUの双方で異議申立を並行して行うべきか否か
どのような戦略で異議申立を行うか
英国とEU、どちらの商標を軸に戦い、相手方のどの商品・サービスをターゲットにするか(重視する市場や両当事者のポジションやパワーバランスを基に判断)
異議申立理由と意見書
多くの場合、異議申立のための意見書は英国とEUで同様のものを提出するため、その作成にかかる手間とコストは削減可能です。しかし、各管轄域で異議申立理由、意見書、要件が異なるケースもあるため、注意が必要です。例えば、EUでは周知されている一方で英国では知られていない商標の場合や、その逆のケースです。同様に、英国では異議申立の提起時に、EUよりも詳細な意見書の提出が求められます。
証拠
要求される証拠はEUと英国で異なります。英国では証拠の提出書式が厳しくフォーマット化されているのに対し、EU知的財産庁(EUIPO)はある程度の自由書式が認められています。いずれにしても、証拠の収集プロセスを効率化することで、コストを削減することは可能です。
和解交渉
EUと英国の双方を視野に入れた包括的な和解の道を探ることは大きなメリットがあります。その際、相手方の言語で、決裁権を持つメンバーと直接交渉することが効率的に交渉を進める秘訣です。しかし、両当事者のポジションやパワーバランスは管轄域によって異なり、和解交渉の効果を最大化するためには、この点も考慮に入れる必要があります。