しかし、英国のEU離脱によってこの手続きは複雑化しました。EUと英国の双方に出願される商標が増えているため、商標権者および代理人は権利保護や行使に向けた対策を各管轄域で別々に進めなければなりません。従ってEUと英国それぞれに商標権を持つ場合、異議申立を行う必要性や、逆に異議申立を受けるリスクが増しているのです。
今後は、各管轄域の異議申立に必要な要件の違いを理解し、それぞれの制度に適した手続きが求められます。ブランド戦略を成功に導くためには、リスクと予算の適切な管理が求められます。そのためのポイントをいくつかご紹介します。
EUと英国の実務の違い
UKIPOとEUIPOの間で、商標の異議申立を扱う法的枠組みや判断基準に実質的な違いはありません。ただし、解釈や手続きの面でいくつかの重要な違いがあります。詳しくは「英国知的財産庁での商標異議申立の解説」「EU知的財産庁での商標異議申立の解説」をご覧ください。
手続きの期限が、全体的にEUIPOよりもUKIPOの方が短く設定されています。また、証拠や意見書に関しても、EUより英国の方が複雑な手続きを求められます。
手続きと期限
UKIPOの異議申立期間は2か月間ですが、EUIPOは3か月間です。ただし、UKIPOでは、各当事者が異議申立期間を1か月延長することが可能です。
一般的にEUIPOでは手続きの期限が長く設定されているため、「クーリングオフ期間」をはじめ、和解の道を探る時間的猶予があります。また、異議申立を受けた出願人は必ずしも答弁書を提出する必要はなく、答弁書が提出されていないことを理由に出願人に不利な決定が下される心配はありません。
UKIPOの管轄下では異議申立の提起期限が短く、延長や留保の認可に対しても煩雑な手続きが設けられています。またEUIPOに比べると、当事者間で和解交渉を行うための期間も限られています。
特に重要な点として、異議申立を受けた出願人は必ず答弁書の提出が求められます。提出がない場合、出願を取り下げたものとみなされます。
証拠と意見書
UKIPOにおいては、異議申立の提起時に異議申立理由を詳しく記載した意見書を提出する必要があります。EUIPOにおいては必要ありません。
UKIPOは証拠の形式に厳しい規定を設けています。EUでは英国に比べると証拠形式の自由度が高いものの、一定の形式に沿って提出すればより効力の高い証拠として扱われます。
UKIPOでは最終判断の前に、各当事者が口頭審理を申請することができます。EUIPOは一般的に書面での主張しか認めていません。
EU離脱後の制度
現時点では、英国とEUどちらか一方の判断が他方に直接影響を与えることはありません。(稀なケースとして、例えば英国の離脱後、英国に拡張される前にEU内で対抗措置が提起されていたEU商標などは、何らかの影響があります)
英国の法律には、既存のEU法が組み込まれているため、離脱前のEUIPOやEU裁判所での判断は、UKIPOでも引き続き効力を維持します。逆に、UKIPOの判断がEU内で効力を持つことはありません。
伝統的に英国とEUでは、法的解釈や判断に違いがあります。今後、英国では商標法も徐々に形を変え、新たな司法判断が生まれると思われます。その結果、双方の実務の違いも広がっていくと予想されます。