UKIPOは、英国またはEEA(欧州経済領域)を拠点とする代理人が指定されていない権利について、2023年1月に重要な実務改定を行い、即日施行されました。
影響を受ける権利
英国で発効済みの全登録商標および全登録意匠のうち、英国に拠点を置く所有者もしくは代理人を持たない権利については、この改定の影響を受けます。同様に、イギリス指定の国際登録、EU指定の国際登録と同等の権利(いわゆるクローン商標・意匠)のうち、英国内の代理人が指定されていないものも影響を受けることになります。
ただし、直接EUに出願されたクローン商標・意匠のうち、EEA拠点の代理人が指定されている権利については、一時的な例外が認められています。EUと英国で交わされた離脱協定法によると、離脱から2024年1月1日までの3年間、UKIPOは上記の権利所有者に対して英国内に送達宛先を置くことを要求することができません。
改定による影響
この改定によって英国内の代理人を指定するための期間が短縮され、該当する権利が何らかの申立や請求を受けた際、所有者は早急に英国の代理人を探す必要に迫られます。間に合わなかった場合、保護を失う可能性もあります。
結果として、英国で登録された権利には英国の代理人を指定することが、これまで以上に有益となってきます。ここからは、改定の詳細や権利所有者が受ける影響について、さらに詳しくご紹介します。
従来の実務
英国商標および意匠の中には、英国内の代理人が指定されていないものがあります。
例えば、国際登録の権利所有者は、異議申立や第三者からの請求を受けない限りUKIPOから英国内での代理人指定を命じられることはありません。
同様に、EUIPO(EU知的財産庁)からも、EU拠点の代理人指定を命じられることはありません。英国のEU離脱後、マドリッド・プロトコルに基づく英国指定のEU商標・意匠が英国の登録簿にクローンされましたが、EEAや英国内の代理人が指定されていない権利が数多く生まれる結果となりました。
これまで、国際登録された権利が英国で異議申立や取消請求を受けた場合、UKIPOはその権利者またはWIPO(世界知的所有権機関)の代理人に対して従来方式の通知を行ってきました。これは、申立や請求があった事実を郵便で通知するとともに、2か月以内に英国内での代理人指定および答弁書の提出を求めるというものです。答弁書が提出されない場合、UKIPOは英国における国際登録が放棄されたものとみなします。
しかし最近、この方式は公的な効力を持たない、という主旨の法的判断※が下され、UKIPOは取消請求および異議申立それぞれの実務を改定し、これが即日施行されることになりました。
※マークス&クラークのギャレス・ジェンキンスとカーステン・ギルバートが担当した、アポインテッドパーソン(注:指名/指定された人物)の判決
今後の展望
取消請求
先述のように、英国拠点の代理人を指定していない権利が取消請求を受けた場合、UKIPOは所有者およびWIPOの代理人へ郵便で通知を行うとともに、英国の代理人を指定するため1か月の期間を設定します。その後の手順は以下の通りです。
- 英国内に送達宛先がなく、答弁書も提出されなかった場合、英国代理人の指定を放棄したものとみなされる可能性があります。ただし、その暫定的な決定に対して異議を唱える期間をUKIPOは設けています。
- 答弁書は提出されたものの代理人が指定されていない場合は、代理人指定に必要な期間としてさらに1か月が与えられます。それでも代理人が指定できなかった場合は、指定を放棄したものとみなされる可能性があります。
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代理人は指定されたものの、答弁書の提出がない場合は、2か月の答弁期間が設けられます。
マドリッド・プロトコルに基づく英国指定の登録手続き中の異議申立
マドリッド・プロトコルに基づく英国指定の登録で、手続き途中に異議申立が提起された場合、UKIPOは従来通り所有者へ直接、またはWIPOを通じてWIPO代理人に通知します。所有者には、答弁書提出と代理人指定のために2か月の期間が与えられます。
- 答弁書が提出されない場合、英国代理人の指定は放棄したものとみなされます。
- 答弁書は提出されたものの代理人が指定されなかった場合は、標章の所有者または代理人へ書面で直接通知を行い、代理人を指定するための期間として1か月が与えられます。代理人が指定されなかった場合、それを放棄したものとみなされる可能性があります。
主な影響
これらの改定によって権利所有者はスケジュール管理の負担が増え、特に取消請求から権利を守る際は、非常に短期間での対応を求められることになります。実際には国内外の郵便に遅れが生じることで、この期間がさらに短くなる可能性もあります。
そのため、あらかじめ英国で代理人を指定しておくメリットは、ますます大きくなっています。
英国で代理人が指定されていない英国商標・意匠の取消請求をする場合、国際登録の英国指定のものは特に、手続きが迅速化すると考えられます。
以上を踏まえ、商標権者が考慮すべき点は以下の通りです。
- 英国における代理人指定が必須であることを理解しましょう。
- マドリッド・プロトコルやハーグ協定に基づく英国指定の登録に関しては、今すぐにでも英国の代理人を指定し、必要な通知がタイムリーに届くようにしましょう。
- 英国指定で保護済みの国際登録に関しては、取消請求への対応期間がタイトになったこともあるので、改めてポートフォリオを見直すとともに英国の代理人指定を検討しましょう。
- マドリッド・プロトコルやハーグ協定に基づく英国指定の保護済みまたは登録手続き中の権利に対して、異議申立や取消請求を行う際は、送達宛先の要件を考慮しましょう。
英国の代理人を指定しなくても英国商標権を得ることは可能です。しかし、異議申立などへの対処や答弁、取消などの請求を行う際は、英国の代理人指定が必要です。
マークス&クラークでは、UKIPO登録の代理人への指定を無料で承っております。ご質問やご要望がございましたら、お気軽にお問い合わせください。