ブレグジットの移行期間終了から約3年が経過し、英国裁判所は2023年12月に結審した象徴的な判決「Industrial Cleaning Equipment (Southampton) Ltd v Intelligent Cleaning Equipment Holdings Co Ltd & Anor [2023]」において、維持されたEUの判例法(「同化法」と知られている)から再び逸脱することを選択しました。この一件が、ブレグジット前のEU法に基づく既存の知的財産原則からの逸脱をさらに促すものになるか、注目に値します。2024年1月1日に施行され、同化法を従来適用されていたEU法の原則から切り離すことを意図している「2023年 維持されたEU法(廃止・改正)」を考慮すれば、なおさらです。
今回の逸脱は黙認の法定抗弁に関するものであり、先使用権者が侵害者に対する権利行使をいつ行うべきか、という問題です。相違の理由は判決の中で徹底的に検証、裏付けされ、英国裁判所が既存のEU法の原則から逸脱する権限を行使しする際は、一定の注意が必要であることを示しています。
法定黙認
法定黙認は、商標権侵害や無効訴訟において利用可能な抗弁です。ブレグジット後は特に、裁判所は「2018年欧州連合(離脱)法」 第6条(7)により(Budvar)で言い渡された「維持されたEU判例法」に従っていました。
Budvarで確立されたように、先使用権者は後から登録された商標の使用および登録への異議申立に5年の期間を有します。この5年間は先使用権者が後の商標の使用と(明示的か、みなし的かに関わらず)登録を知った時点から始まる、とされていました。
この判決の第 84 項において、 アーノルド・LJ裁判官は「Budvar は非常に限定的な判決であり、そこから導かれる原則は、説明が限定的な『明確な結論』の結果である」という事実を強調しています。さらに、議論の的となっている現状の欠陥を強調し、アーノルド・LJ裁判官は「後の商標登録に関する知識の要件が、法定黙認の期間が消化されるのを回避するために、ブランド所有者が商標登録簿を参照しないことを効果的に促す」という点で被告の意見に同意しています。
最後にアーノルド・LJ裁判官は、英国ではブランド所有者が登録商標を示すために ® シンボルを使用する義務はないことを踏まえ、商業的な観点から状況を検討しました。従って、同裁判官は「特に英国におけるブランド所有者と専門アドバイザーの間のコミュニケーションが法律専門家の特権によって保護される可能性が高いことを念頭に置けば、『使用』に関する知識よりも『登録』に関する知識を証明する方が困難になる可能性がある」と述べました。
逸脱
Budvar で下された見解とは対照的に、アーノルド・LJ裁判官は「先使用権者が後からの商標登録を認識しているかどうかに関係なく、先使用権者が後からの商標使用を認識し、その商標が登録された時点で5年の期間が開始されるべきである」とした。これは、5年の期間が始まる前に先使用権者が後からの商標権者の使用と登録の両方を認識しなければならなかった従来の立場を180度転換するものです。
評価
上記のBudvarの弱点はさておき、同化法からの逸脱を決定づけた重要な要因は、この原則がEUレベルでは未解決であることです。実際、アーノルド・LJ裁判官は「EUのIPO実務と一般裁判所の判例法が、Budvarにおける司法裁判所(CJEU)と対立していることを強調すべき」と考えました。従って、今後はCJEUによって法的黙認が再検討され、既存の原則が再評価される可能性は十分にあります。
この逸脱は、被告が第一の理由(先行商標の所有者が後の商標を認識していなければ時効が成立しないかどうか)については上訴に成功したものの、第二の理由については上訴に失敗し、商標権侵害の責任を負うことになったため、被告に有利には働きませんでした。しかし、商標法のこの側面における逸脱がもたらす結果は、さらに広範囲に及びます。新しい法的立場は、ブランド所有者に商標登録簿の精査を通じた侵害商標の監視と、適時適切な対抗措置を奨励するものであることは間違いありません。同化法の他の側面が今後も踏襲されるかどうかは、時間の経過とともに明らかになるでしょう。
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