UKIPO(英国知的財産庁)より、ついに発表!
英国内に送達宛先がない場合の書類送付について
今後UKIPOは、申立に対する抗弁を行う当事者に対して英国内に送達宛先を設定することを義務化し、当事者は1か月以内に送達宛先を登録する必要があります。情状酌量や登録官の裁量にもよりますが、応じることができなかった場合は、出願や登録が放棄されたものとみなされます。
英国外の商標権者が異議申立などの請求、およびそれに伴うUKIPOからの書類送付を受けた後、抗弁を行うための期限に間に合わなかった場合でも救済措置が設けられますが、今後、英国での商標出願や登録商標が何らかの申立・請求を受けた際には英国内の送達宛先が必要であり、未登録の場合は期限内に速やかに登録することが求められます。
この背景には、英国外に送達宛先を持つ商標出願または登録商標に対し、係争時においては英国内の有効な送達宛先を設定することを求める新たな規則(2023年2月付の審判所実務通知/Tribunal Practice Notice:TPN)があります。このことは、本日公開されたギャレス=ジェンキンス氏による記事「Need UK representation? A Marco Polo Journey」でも述べられています。主な対象としては、英国指定の国際商標登録や登録意匠を巡る係争に加え、英国EU離脱後の暫定措置として発生したEU商標・意匠のクローン(英国内に送達宛先が設定されていないもの)に対する取消請求も含まれます。
今回の制度改定前は、送達宛先が英国外の場合、抗弁の期限は送達から2か月間とされていました。しかし、期限内に抗弁ができず、出願人や権利者が権利を喪失するケースが頻発していました。その一例として、アポインテッドパーソン(Appointed Person)への上訴およびUKIPO内の実務の見直しにまで至った事案※があります。これは権利者の送達宛先としてオーストラリアの会計士の住所が登録されており、UKIPOからの書類がその宛先へ送付されたケースです。当時、オーストラリアは新型コロナウイルスによるロックダウンの最中で、係争期間中も会計士の事務所は閉鎖されていました。その結果、抗弁書は提出されることなく、権利者の登録は取り消されたのです。この一件を受けて、以下の通り8月に裁定を下しました。
- 登録官の効力は管轄域の外には及ばない
- 英国内の有効な送達宛先がない場合は、有効な送達を行うことができない
先述のアポインテッドパーソン(Appointed Person)による裁定を受け、UKIPO内の実務の見直しが行われる間は異議申立や取消請求などを留保する、と昨年末に英国内の弁護士へ通知がありました。今般の審判所実務通知(TPN)は送達宛先に関する懸案を解消するものであり、関係者からは歓迎を受けています。異議申立や取消請求を受ける側の出願人や権利者にとっては、抗弁の期限を過ぎた場合も追加のチャンスを与えられることになり、新制度は喜ばしいものとなりました。一方で申立・請求を提起する側にとっては、少し不満の残る形となりました。
今回の変更によって、英国で登録されている商標・意匠に対しては、英国の弁理士資格を持つ代理人を選定することが重要となりました。そのことが、取消請求や新規の競合出願といったUKIPOからの重要な通知を確実に受け取り、対応の遅れや権利喪失を防ぐことにつながります。また、UKIPOの実務や指針に変更が生じた場合、それらが迅速に伝わるだけでなく、資格を生かした適切な助言を受けることも可能です。すべての英国商標権者には2023年12月の期限までに英国の代理人を指定することが課せられていますが、今のうちに指定しておけば申請処理に送れる心配はありません。
マークス&クラークは英国内に8か所の拠点を持ち、英国の送達宛先として指定することが可能です。同時に英国の代理人として指定可能な人材も多数在籍しております。